小说原文:反物质委员会

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明黎思绮如涔讨论 | 贡献2020年5月6日 (三) 17:30的版本 (创建页面,内容为“ 2016年初夏。東京・秋葉原。シュタインズゲート世界線。 また、この季節がやってきた。  何度も巡るこの季節は同じ…”)
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 2016年初夏。東京・秋葉原。シュタインズゲート世界線。

また、この季節がやってきた。

 何度も巡るこの季節は同じものではない。まるで同じような温度や湿度、天候のようでも、去年と今年、今年と来年とではまったく違う。

 巡り来る歳月とともに季節もまた巡りゆく。地球温暖化かまびすしい昨今では、この季節の移り変わりが早くなったり遅くなったりすることはある。

 だがそれでも、季節の流れそのものが滞ることはない。ただひたすらに、ただ未来へと、この世界の誰にとっても平等に流れている。たとえ誰であろうと、いくら望もうと、この流れに逆らうことなどできはしない。

 過ぎ去った時間は、戻ってくることなどない。

 ましてや、変えることなどできない。

 俺はそのことを知っている。

 過去が、誰にとっても変更のできない世界であるように。

 未来は、誰にとっても未知の世界だ。

 それはいいのだが。

 すべての問題が片付いた——というのなら、まだしも。

 いくつか、ヤバい問題が残っていた場合には、どうすればいいのだろうか?

   chapter01   7/151.048596 「クックック……また会ったな諸君」

 (スイッチオン)

 (ぴらりらりらりらりらりらりら〜ひゃららり)

 (ぱんっぱんっぱんぱんぱんっぱんっぱんぱん)

 (ひゃらりーひゃららーひゃられーろれっ)

「この映像を見ているということは、諸君には“その時”が訪れてしまった、ということかと思う。今、おそらく諸君は我が姿に驚愕し、狼狽していることだろう。そう、なぜなら諸君は覚えているはずだ。かつてこの世界を破滅の寸前まで導いたという、最終戦争。あの辛く苦しい戦いは、すでに終結したはずではないか? とな」

「諸君がそう思い込んだとしても仕方のないことだ。それほどまでに、あの戦いは凄惨をきわめた。諸君にも消えることのない傷跡を残してしまったことだろう……」

 (わわー、まゆしぃこの曲知ってるよー)

 (ミッソンインポセボーとノレパン三世とゴッドパピーのテーマで迷ったあげく)

 (ミッソンインポセボーになったらしいお)

「我が最後の戦いを目にした諸君と再びまみえることになろうとは、なんとも皮肉な話だ。なにしろこの鳳凰院凶真、かつての戦いで命を落としたはずだったのだからな……!!」

「だが! 言ったはずだ、この鳳凰院凶真は滅びぬ。いずれまた諸君の前に立ちはだかるだろう、とな。その言葉通り、地獄のフチから蘇ってきたというわけだ! フゥーハハハ!」

 (みそ汁いんぽセボン……?)

 (まゆ氏まゆ氏。みそ汁の後の部分、リピートアフタミー)

 (穢らわしいものを見るような目で吐き捨てていただけますと私どもの業界では!)

「フッ……わかっている。何が起こったのかを説明しろと言うのだろう? もちろんだ。俺はそのために戻ってきたのだから! 新たなる世界創造の前には、既存の秩序を破壊せねばならない。クックック……よもや忘れたわけではあるまい。この鳳凰院凶真は、一度手にしたコマをみすみす手放したりはしない。諸君らはすでに我が術中に嵌っているのだ。途中で逃げ出せるなどとはゆめゆめ思わないことだな……!」

 (毛皮らしいセボン……?)

 (んー、ダルくんはおトイレの芳香剤が好きなのかなー?)

 (ああっ露骨にスルーとかご褒美です! まゆ氏の暗黒微笑が五臓六腑にしみわたるお!)

「さて、諸君はこのガジェットが気になっていることと思う。先日クラウドファンディングにより多数のご支持を頂戴した、我が(株)未来ガジェット研究所の新作ガジェットについてだが……そう、“GGクリッカー”のことだが……!」

 (じじークリッカー?)

 (まゆ氏、じじーじゃなくてGGでござる。グランドジェネレーションの略称なんでヨロ)

「ファンドを通じ多大なるご支援をいただいた諸君には申し訳ないが、現在、当該ガジェットはとある組織との係争により——ここでは“機関”と呼ぶことにしようか——開発がやや遅れている。このことは、クラウドファンディングのサポートサイトで告知させていただいた通りだ。出資をいただいた諸君には、さぞ気を揉ませる展開であろうと思う……!」

 (でもダルくん、どうしてこの曲なのかなあ?)

 (だってね、このビデオって、新作ガジェットさんができてません、ごめんなさ〜い)

 (でも頑張って完成させるからもうちょっと待ってね、ってお願いじゃなかったっけ?)

「だが諸君! ぜひとも安心して欲しい! ブツはここにある! なにぶん当局——じゃない、機関! 機関とのパテントに関わる極秘事項が問題でちょっと差し止めがありまして! でなくてこれをクリアできないので! それでリリースに手間取っているわけで、なので、その」

「今さら出資金返せって言われても、困るのだ……」

 (なおこのテープは自動的に消滅する、キリッ、てのがやりたかったんじゃね)

 (たぶん、新作ガジェットとか遅延告知とか、途中でどうでも良くなったんだと思われ)

「ええいお前たち! いい加減にしろ!」

✛ ✛

 開け放たれた窓から、澄み切った青空がのぞいていた。

 その雲の高さだけならすっかり初夏の装いだ。こうして怒鳴っているだけでもじりじりとライフの減少が実感できる。上着代わりの白衣が異常にペタつく。

 暑い。

「おとなしく聞いていれば、さっきからいらん横やりばかり入れおって……! ちょっと動画を撮る間ぐらい静かにできんのか!?」

 秋葉原のメインストリートから奥まったところにある、ブラウン管専門店の二階。身内ではラボと称している我が拠点、(株)未来ガジェット研究所。

 その談話室のおんぼろフローリング上では、早くも扇風機がかっこんかっこんと首を振っていた。こちらもかなり年季の入った骨董品だが、これが唯一の空調家電なので仕方ない。このご時世、秋葉原で家賃激安な物件など他にあるわけもないので我慢である。

 そんな中、俺は背面を向けてセットされたノートPCをひっくり返し、慣れないタッチパッドを探りさぐり、稼働中のウィンドウの隅っこにあった停止ボタンを押す。

 このウィンドウは、RECボタンを押した瞬間から内蔵カメラが延々動画を撮り続けるというごくごくシンプルな録画アプリだ。サルでも使えるのがウリである。が、それはつまり、編集機能だとか途中からリテイクだとか、そんな気の利いた機能はないということでもある。

 げっそり。

「……まったく、また最初から撮り直しではないか」

「怖いわーマジ言いがかり怖いわー。僕はまゆ氏と話してただけですしおすし」

 ノートPCを相手にぶつぶつと文句を言っている俺のことなど知らん顔で、お座敷PCの前に陣取ったラージサイズな奴がなにやらうそぶいている。

 ダルである。正確には橋田至でありラボメンナンバー003。ちなみにラボメンとはラボラトリーメンバーの略だ。その筋にモテそうな顎ヒゲを生やし、南国風のシャツなど着ているが、あれらはすべてお仕着せだ。中身はエロゲーとプログラムの詰まった生粋のギーク野郎なので安心して欲しい。

 ほとんど扇風機を占有しているのにまだ暑いのか、小洒落たハットをぱたぱた仰いでいる。

「だいたいさあ、こっちでも作業してるからもうちょっと待ってって言ってんのに、オカリンが勝手に録画始めちゃったんジャマイカ」

「ごめんねオカリンー」

 コンビニのビニール袋をがさがさと引っかき回しているのは椎名まゆり。ラボメンナンバー002にして幼馴染みにして我がラボの女大幹部であるのだが、ダルともども、俺の本名である岡部倫太郎を勝手に縮めてあだ名で呼ぶのだけはやめて欲しい。もちろん我が真名は鳳凰院凶真である。

 ほんわりと微笑みながら、まゆりはニワトリを模したからあげボックスを差し出してくる。

「オカリンも食べる? 新作のね、バジルチキン味っていうんだー」

「このクソ暑いのに、よくこんな油っこいものを食べられるな……」

 いかにも「油! 肉! 揚げたて!」といった熱気をつきつけられて、俺は思わず後じさりする。逃げ出すように冷蔵庫からドクペを取りだし、封を切って胃袋へと流し込むと、キンキンに冷えた杏仁豆腐風味が喉を潤していく。

 やはり、暑いときにはドクペだ。というか、からあげは無理。

 いかがわしい炭酸の快感に身を震わせていると、ダルが不思議そうな声を上げた。

「あれ? まゆ氏、この間からあげ大人買いしてなかったっけ?」

「ジューシーからあげナンバーワンのことかなー? 冷凍庫にたくさんあるから、ちょっとだけならダルくんも食べていいよ☆」

 言われて冷凍庫を開けてみると、ぎっちりカラフルな冷凍パッケージが詰めこまれていた。

 その容赦ない買いこみっぷりに、さしものダルも、うっ……と声を詰まらせる。

「お言葉はありがたいけど、今は遠慮しとくお……」

 まゆりはメイド喫茶でバイトしていた頃から何かにつけて買い食いしていたのだが、この春に就職してからというもの、さらにそのボルテージが急上昇している気がする。冷静に考えればそこはかとない狂気を感じる光景なのだが、まゆりにカネを持たせたらこうなるのもやむなし、といった感もある。

「く……まさか、まゆりがブルジョワの犬になろうとはな……!」

「まゆしぃは犬じゃないよー。お給料もそんなに多いわけじゃないし。これでもちゃんとやりくりしてるのです」

 ふんふん、と鼻歌交じりにちょきちょきと色画用紙を切っている。またぞろお遊戯だとかで使う教材かなにかを用意しているのだろう。

 そう。まゆりはこのあいだ短大を卒業したかと思ったら、いつの間にか近所の幼稚園にあっさり就職していたのだ。最近では保育士と呼ぶアレである。まゆりが子供の面倒を見れるのか、と当初は心配したのだが、ちゃんと仕事はこなしているようだ。

 ……まあおそらく、まゆりの精神年齢が園児と近いせいだと思うが。

 そんな微妙な面持ちの俺をよそに、次々と切り抜かれていく色画用紙を横目に見ていたダルが感心したような声を上げた。

「それにしてもまゆ氏はすげーっすな。幼稚園で仕事してからラボに来てまた残業とか、オカリンじゃ絶対にできん罠」

「いつもはこんなことできないよー。夏休みに入っちゃったから早く退けただけだし」

 最近はちょうど幼稚園が夏休みに入る頃合いだとかで、一部の園児を預かる勤務になっているらしい。時間的に余裕が出てきたからか、ラボに顔を出してはなにやら作業をしている。

 まゆりの勤務している幼稚園では、七夕やクリスマスのような季節のイベントだけでなく、常日頃からこうした小道具を使ったお守り……もとい、幼児教育に力を入れている。コミマのコス製作でならしたまゆりにとっては朝飯前だ。

 保育士という稼業には、結構この手の残業というか持ち帰りの作業が多い。

 なにしろ相手は子供の皮を被った怪獣である。ちっともじっとしていないし、話を聞けと言っても聞くわけがない。そうした連中の注意を惹くには目新しいブツを取っ替え引っ替えするのが一番なのだそうな。

「それにね、こういう教材を用意するのって、楽しいんだよー。オカリンが作ってるガジェットさんと、似てるかなーって」

 くすくす、と小さく微笑みながら、まゆりは切り離された画用紙のパーツを組み合わせ、ヒマワリだか犬だかよくわからないクリーチャーを生成しようと奮闘している。ガキんちょどものお守りをするにも、自分で考える余地を残しておくようにとか、マンネリにならないようにとか、いろいろ工夫が要るらしい。

 ……もっとも我が未来ガジェットがお遊戯の画用紙切り貼りと同じと言われると、ちょっとだけ膝を抱えてしまいたくなるのだが。

「あっでもね、オカリンのガジェットさんも、大人気なんだよー」

 そうなのだった。

 まゆりに頼まれて、我がラボ謹製のガジェットのうちいくつかは幼稚園に貸し出しているのだ。中でも栄えある未来ガジェット一号機、ビット粒子砲は一番人気であるそうな。放映後に投げ売りされていたアニメだか特撮だかのオモチャを流用しているだけあって、あのデザインは悪くないからな。

「クックック……当然だろう。我が(株)未来ガジェット研究所の成果物は、それほど甚大なる影響を与えるということだ。幼い子供にとりいってその無意識につけこみ、いずれはガジェットなしでは我慢できない身体にしてしまうのだ……!」

 コンビニからあげの新作を口に放りこみ、ここぞとばかりに嫌らしい笑顔をキメる。

 そんな俺を見やり、まゆりがぼそりと呟いた。

「……でもオカリンー、その新しいガジェットさんのせいで、動画を撮ってたんじゃないのかなー?」

「ぅぐほぁっ!!」

 忘れようとしていた急所をいきなり突かれ、思わず変な声が出た。

 なんか胃のあたりがきりきりと痛んできて絶句している俺をちらりと見上げ、まゆりは「はふぅ……」と嘆息する。

「オカリンがしゃちょーさんだなんてね、まゆしぃは今でも信じられないのです……」

「まあ社長ってのも名前だけだけど、一円企業でも立ち上げてるだけマシってもんじゃね? オカリンがまともに就職活動できるなんて、みんな思ってなかったんだし」

「ほほう……では訊くが、その名ばかりの会社にいるのは一体誰だ?」

「僕はフリーで仕事やるっつってんのに、強引に籍だけ置いたのはオカリンジャマイカ」

 返す言葉もない。

 我がラボは数年前、株式会社未来ガジェット研究所として正式に会社化したばかりの零細企業である。もちろんのことだが当研究所の代表取締役社長はこの俺、鳳凰院凶真である。この二階はその事務所なのだ。主な業容はというと、ガジェットの作成と販売、コンピュータ関連の委託業務請負、その他もろもろ。

 このうちコンピュータ関連のなんちゃらかんちゃらは、早い話が前からダルがやっているバイトだ。勝手に請けて勝手にさばいているプログラムやら保守の仕事を、我が社の業績として組み入れているだけである。どうせ一人で仕事をするのなら、ラボメンだろうが社員だろうが変わらんだろう……! と頼みこんだ結果、とりあえずダルは社員ということになった。

 なので現在、実質的に我が社の仕事はガジェット作成と販売その他、ということになる。

 なるのだが……

「でもさ、その結果が今回のガジェット開発遅延なわけっしょ。これなら迷いペットとか探してた方がマシだったかもしれん罠」

 言いつつ、カココ、とお座敷PCを操作したダルは、先ほどノートPCの付属カメラで撮ったばかりの動画を再生してみせる。ミッソンインポセボーのテーマ曲を背景にフゥーハハハ、と高笑いをしているその姿は、我が事ながらイラッとした。

「資金集めにクラウドファンディングなんて使ったおかげで、お詫び動画を撮るハメになるとか、かなり本末転倒っつーか」

「でもダルくん、この動画のオカリンってね、お詫びしてない気がするなー」

 画用紙の不定形生物に目を書き入れながら動画を見やり、首をかしげているまゆり。

 もちろんそんなことはまゆりに言われるまでもない。もし俺がファンドでカネを出したとして、こんな動画が公開されたらその時点で資金を引き揚げることは間違いなかった。

 数分前の自分の姿にこめかみを揉んでいる俺を見やり、ダルが面倒くさそうにぼやく。

「お詫び動画も動画投稿じゃなくてニコ生の方がよかったんじゃね? 問題起こした企業の記者会見ってライブが基本でしょ。一発撮りしかできねーなら、編集の手間も省けるだろうし」

「その一発撮りでまた怒りを買ったらどうするのだ?」

 かつて隆盛を誇った@ちゃんねるやその他ネット上の掲示板群は、全盛期よりも少し下火になりつつあるがまだまだ健在だ。まとめブログや昨今普及したツイぽやRINEのようなSNSサービスとも連携し、企業の炎上案件などでは相変わらず強力な発信力を誇っている。

 ただでさえ納期が遅れているというのに、その報告がグダグダではクライアントの怒りに油を注いでしまうことは想像に難くない。炎上の憂き目だけは避けたいところだった。

「もうこの際さあ、手付け返して『失敗ですた』でいいんでないの? クラウドファンディングなんて半分ぐらいは失敗するのが前提みたいなもんだし」

「まったくの手つかずならそれもやむを得ないが……すでにブツは発注してしまったからな」

 開発室の方へと目をやると、資材という名のガラクタがごろごろしている机の上には、柔らかそうなシリコン製の試作品がくったりと投げ出されている。

 そのシリコンの薄皮をびよんびよんと伸ばした俺は、ポケットから取り出したスマホに被せてみた。最近、ようやくガラケーから買い換えたスマホは耐衝撃性のごつい奴だが、シリコンジャケットはなんなく筐体をのみこみ、ぴっちりと貼りつく。

 スマホの頭には、ジャケットに付随したゴルフボールほどのシリコンボールが装着される。インストール済みのアプリ欄から「GG」というアプリを起動すると、ヴヴヴヴ、と控えめに震動する。

「公式マーケットからアプリの認可が下りないだけで、ガジェットの作成自体に失敗したわけではないのだ。ここまで来たからにはなんとかリリースしたいところだな……」

 うぬぬぬぬ、と思わずうなり声が漏れる。

 ☆未来ガジェット69号:GGクリッカー ボール型や指圧用のでっぱりがあるスマホ用のシリコンジャケット。バイブ機能を制

限解除するアプリと連携するマッサージャー。音声再生モードあり。認可申請中。

「マッサージアプリを無料で配布し、マッサージボールのついたシリコンジャケットで利幅を出す……つまり、一品ものであったこれまでのガジェット作成から脱却し、大量生産によるコストダウンと販路の拡大を一挙に計ったというわけだ。まさに悪魔的、理にかなったビジネスモッデール! といえよう……!」

 ぶっちゃけ、シリコンジャケットに付加価値を付けただけである。というか、どちらかというとバイブ機能をハックして強力にしてしまうアプリが主で、シリコンジャケットはおまけに過ぎない。なお当然のことだがこのアプリはダル製だ。スマホのバイブ機能をハックするアプリをひょいひょい作ってしまうあたり、頭の使い方を間違っているとしか思えない。

 もっとも、シリコンジャケットを作るカネなど弊社にはないわけで。

 そこで流行りのクラウドファンディングとやらで「こういうものを作るつもりだ」と募ってみたら思いのほか資金が集まってしまい、後に退けなくなってしまったのだった。

 だがこのガジェット、問題は意外なところにあった。

「いやーまさか僕のアプリが引っかかるとは思わんかった罠」

「よもや、公式マーケットが登録を認めないとはな……」

 スマホのバイブ機能が不適切に利用されかねない、という理由で認可が下りないのだった。

 公式マーケットから送られてきたメールにはどう不適切なのかを書いていないので、どうすればいいのか途方に暮れる。

 そんなわけで、とりあえず「もうちょっと時間かかりそうなんで待ってね」動画を撮ろうとしていたわけである。

「おのれ“機関”め……高齢化社会に向けて、グランドジェネレーションに媚を売るだけの肩もみガジェットが、なぜ不認可を喰らうのだ!?」

「いやあ、問題あり杉だからじゃね? 少なくとも公式マーケットじゃ無理っしょ」

 ぎりぎりと歯ぎしりする俺を見やり、ダルは肩をすくめる。

「このシリコンジャケットとかもろにアウトと思われ。不適切ってそういう意味っしょ常考」

「? バイブ機能を使ったハンディ電動マッサージャーの、どこが問題だというのだ?」

「だってこれ、どう見ても電マだし」

「電マではないっ! ……と、何度言えばわかるのだ、ダルよ」

 電マ、というのは電動マッサージ機の略である。多くはスティック形状で、握りこぶしほどのバイブレーターがついている。もちろんこれだけだとただのマッサージ機のようにしか見えないのだが、ええとそのう、一部好事家の間ではエロ目的に使用されることもあると聞く。

 ……確かにそう言われればこのシリコンジャケット、そう見えないこともないような。

 ちょっと押し黙ってしまった俺に、ダルはさらに畳みかける。

「そんじゃ別のこと聞くけど、アプリに内蔵してるMP3プレイヤーは何に使うん?」

「リラックスタイムにBGMぐらいあってもいいだろう。それに最近のお年寄りはデジタルデバイドも少ないと聞くから、孫のメッセージでも入れれば気分が出るはずだ」

「それ、デフォで入ってるのってオカリンの声じゃなかったっけ? 公式マーケットの申請に使ったバージョンだけど」

「そうだが」

 頷いた俺の前でダルはスマホを取り出し、アプリを立ち上げ「再生」ボタンをタップする。

 直後、俺の声がラボ中に響きわたった。

『ここか? それともここか? まさか、ここが気持ちいいというのではあるまいな? しらばっくれようと無駄なことだ、フゥーハハハ! この俺には、貴様の弱点が手に取るようにわかるのだからな……無駄な抵抗はやめ、その身をこの手に委ねるがいい……!』

 ウインウインウインヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!

 停止ボタンをタップして、ダルは一つ息をつく。

「……なあオカリン。僕も悪ノリして作った手前悪いけど、やっぱこれは言い訳できねーわ」

 そうして首を振りつつ、ダルは重々しく口を開いた。

「これ、エロいやつっしょ」

「誤解だっ!」

 なんとなーくそうかもなー、という気がしていたが、ここまで言われれば俺にもなんとなくわかってきた。ダルの言わんとする「不適切」とやらが何のことなのか。

 つまり公式マーケットは、GGクリッカーを大人のオモチャだと判断した、ということだ。

「栄えある未来ガジェット69号がエロアプリ扱いとは……」

 あんまりである。これほど高出力なバイブレーション機能を実現できるアプリなどそうはないが、利用方法はそれこそマッサージャーぐらいしか思いつかなかったのだ。だからシリコンジャケットまで用意したというのに、それをエロいやつだなんてひどい。

 せめて電マでとどまってもらいたい。

「やっぱ電マなんじゃねーか」

「……ぐぬぬ」

 歯噛みする俺をよそ目に、ダルはPCチェアに座ったまま再びスマホをバイブさせ、股間に置いて「らめぇ」とかほざいている。服や見た目こそ多少リア充っぽくなったとはいえ、こいつの中身はなにひとつ変わっていない。

 そのナメた態度にカチンと来た。

「いいだろう……そちらがそのつもりならこちらにも考えがある!」

「ちょオカリン、バイブ機能最強にするとマジ痛いんだけど……まゆ氏見てないでヘルプ!」

「オカリンとダルくんは仲良しさんだねえー」

 PCチェアのダルをふん捕まえ、その短い足首を持ち上げるが早いがスマホ越しに股間をぐりぐり踏んづける。びりびりするようなスマホの震動とともになんとも言えない感触がスリッパ越しに伝わってきて、ダルが「ぎにゃー」という断末魔の叫びをあげた。

 と。

 その時、ぎぃぃい、とやたら建て付けの悪い音が響き渡った。

「あ、あのう、お取り込み中ですか……?」

 それと同時におずおずとした声が聞こえ、振り返った俺の視界にぴよぴよとしたサイドテールが飛びこんできた。ここいらではあまり見ない高校の制服だが、夏仕様になったのか、スカイブルーのチェックタイが眩しい。

 そうして、電マもといエロいやつもといシリコンジャケット装備のスマホを股間にあてたまま、悶絶しているダルの痴態を見てしまった彼女は。

「……うわあ」

 と心底嫌そうに呟いた。

 その顔には『来るんじゃなかった……』と書いてある。年頃の女子高生にはさぞキモい光景だったろうが、こういう店子だとわかっていたはずなので許してもらいたい。

 そんな彼女の姿を見やったまゆりが、できたばかりのクリーチャーをかたわらに置きながら嬉しそうな声を上げた。

「あっ、綯ちゃんだー。いらっしゃーい☆」

 その視線の先にいるのは階下のブラウン管工房の主、天王寺裕吾氏の一人娘。

 綯だった。